借金をしない人生

　小さな頃から他人から物を借りると気になってしょうがない性格である。人に物を貸して帰ってこなかったものは数多くあれど、人に借りて返していないものは無い（と本人は思っている）。したがって、何を買うにも現金払いで、ローンさえ組んだことが無い。そんな私が大きな借金をしようと思ったことがある。
　それは、屋久島へ移住する前に神奈川県小田原市に住んでいた頃の話である。４０歳を過ぎもうそろそろ家の購入を考えていた時である。「いつもニコニコ現金払い」の私がさすがに家を買うときだけは、その買い物の額の大きさにローンを考えなければいけなかった。一生住む家ならば、最低５０坪の土地は必要であると言われているだけに、その頃は自己資金２千万円、ローン３千万円で、合計５千万円の家を建てようと計画していたのである。３千万円を借りて、３５年で返済すると（なんと７５歳過ぎまで払い続けなければならない）、その返済額は５千万円にもなってしまう。５千万円の家を建てても、総額では７千万円も払うことになるのである。でもその当時はそれだけの支払いが出来る収入もあった。家を建てるため一級建築士の免許を取り、建築に関するあらゆる本を読み漁り、家を建てることに関する情熱は並々ならぬ物があった。しかし気に入った土地がなかなか見つからず、どたばたしている間に、屋久島に呼ばれて移住してしまったのである。
　屋久島で購入した中古の家は、築７年。家は３０坪の平屋建て。土地は７５０坪、総額１千７百万円の「いつもニコニコ現金払い」の買い物であった。
　確かに屋久島へ移住したことにより、高収入の職を失い、収入は激減した。生活のレベルも昔に比べて、質素になった。その分、体重は１０キロ以上やせ、健康診断でいつもひかかっていた尿酸値なども正常値に戻り、健康な生活を送っているのである。
　「借金をしない人生。」私らしい人生だと思っている。