波が来た

　自分の人生を振り返ると面白いことがある。これに気がついたのは、４０歳の時。私の人生には５年ごとに波が寄せている。ほぼ５年周期で新しいことを始めては夢中になり、毎日、そのことに２，３時間、時には睡眠時間を削ってさえも、４時間，５時間と費やす。そんな生活が３，４年続くのだ。
　初めての波は、２０歳の頃から。当時大学に通っていて、土木系の講義がとても面白かったし、卒業論文を書く為の研究に没頭していた。４年生の時には、講義室を改造して作った風洞実験室を一人で使っていて、週に２、３日はその実験室で寝泊りしていた。卒業論文も英語で書き、それなりに自分の満足いくものとなっていた。
　２回目の波は、２５歳の頃、硬式テニスに夢中になっていた。早朝練習、昼休み、ナイターとやっていた。
　３回目の波は、３０歳の頃。登山を始めた。当時の記録を見ると、一年に３５日も山に行っていたのだから、すごい。高山植物の名前も１００種類以上覚えた。一日中、山の本を読んでいた記憶がある。
　４回目の波は、３５歳の頃。自分で家を設計しようと思い立ち、建築士の勉強に没頭した。建築士の資格試験には、学科試験と実技試験がある。学科試験はそれほど大変ではないのだが、実技試験の製図は大変だった。土木畑の私は、建築の図面を一度も書いたことが無いばかりか、建築現場にも立ち会ったことが無かった。試験は、「○○平米の○○機能を持った、公共図書館を設計しろ」というようなもので、４、５時間で図面を書き上げなければならない。この練習を毎日毎日繰り返していたのだから、自分でも驚くほどすごいと思う。
　５回目の波は、４０歳の時。何を思ったか、ピアノを始めた。これは本当にハードだった。私にとっては、一級建築士の資格を取得するよりも大変だった。こんなに練習しているのに、今だかつて娘から、「うまくなった。」と言われたことが無い。
　６回目の波は、４５歳の時。屋久島へ移住、転職し、田舎暮らしを始めたこと。これまでは、５年ごとに区切りをつけられたのだけど、５３歳になった今も田舎暮らしに悪戦苦闘している。５年ごとに来ていた波も無く、「年なのかなぁ。」とか、「屋久島への移住が余りにも大きなことだったのかなぁ。」と考えていた。