牧場の仕事２ 土木系の大学を卒業し、特段の就職活動もせず、明確な将来展望も無いまま公務員試験を受けたら、日本道路公団と神奈川県庁の試験に合格したため、県庁ならばあまり転勤がないだろうという理由だけで、就職を決めてしまった。小さいころより物を造ったりすることが好きだったので、橋や道路を作ったりする仕事に何の疑問も持たずに仕事をこなしてきたが、現場での仕事を離れデスクワークが増えるにしたっがって、自分の仕事に疑問をもつようになっていった。自分の仕事が県民のためになるならまだしも、どんなに頭をひねってもこの仕事は県民に借金を背負わせるだけだという仕事に携わると、私の性格上働けなくなってしまったのである。 口永良部島の人たちはとても元気である。私が仕事で知り合いになる人は、ほとんど私よりも年上で、あと２年で５０歳になろうとしている私を捕まえて、「君たちのようないい若者が…」（方言で言われる。）と言う人たちである。みんな７０歳以上である。都会ではなかなか見られないが、畑を作り、牛を飼い、バイクに乗って島を闊歩している。牧場の堆肥を無料でトラックで配っているのだが、私より力強く堆肥の運搬をこなす。この私が腰が痛くなりそうなものまでも、簡単に運んでいくのである。 私は犬と同じだと思っている。マンションの一室や狭い檻に飼われるとストレスで病気になってしまう。一日中、満員の通勤電車に揺られ、部屋の中で会議をし、パソコンに向かい、タバコの煙が充満し…、思い出しただけでもストレスがたまる。私の頭も肉体もそのような都会生活には向いていなかったようである。 今の社会を変えるのは既得権を排除していくことだし、そして、また個人の人生をよりよくしていくのも自分が持っている既得権を捨てていくことだと思っている。自分は公務員という職業の既得権をあっさりと捨ててしまったが、今では良かったと思っている。 私は登山が好きな人間であって、山頂まで道路がつながっていても、車で山登りをする人間ではない。一歩、一歩、歩く人間である。確かに、山道を歩くと雨が降ったり、虫にかまれたり、寒さに凍えたり、道なき道を草を掻き分けて進まなければならないが、そんな人生が好きなのである。車に乗っている人からは「雨の中を重たいリュックサックを背負って歩くなって、何と馬鹿な人間であろう。」と見えるのかもしれないが、山登りをしている人間にはとても楽しいことなのである。 |
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