３年目（屋久島生活）

　屋久島へ来て３年の月日が経った。歳を取ったこともあり、あっと言う間の３年である。歳とともに時間が流れるのが速くなる気がするが、それでも屋久島では以前に比べ時間がゆったりと流れている。それは何故なのだろうか？
　私は、若い頃から通学、通勤に多くの時間をかけていた。大学生の頃は東京の江戸川区から埼玉の浦和まで片道２時間以上もをかけて通学していた。就職してからも殆どの職場が片道１時間半以上の通勤時間であった。片道１時間半、往復で３時間の通勤時間は週５日間働いたとして一週間で１５時間で、約２日分の仕事時間となる。
　その点、現在は職場まで車で５分。以前は通勤時間もさることながら残業もかなりしていたので、睡眠時間等を削らないと平日に自分の時間を持つことが難しかったが、屋久島では通勤時間や残業時間が少ない分、毎日４、５時間の自由時間がもてる。
　若い頃は、平日に少し無理をして仕事をしてでも、休日が多いほうがうれしかった。それは山に行ったり、テニスをしたりと外出することが多かったからであろう。しかし、最近は毎日、自分の時間が持てることにこの上ない喜びを感じる。生活の中に、絵を描き、ピアノを弾き、本を読み、畑の草取をし、酒を飲む。日々、自分の好きなことを積み上げていくので、以前の生活と比べて毎日が充実しているのかもしれない。
　もし屋久島へ来なければそれなりの年収はあったが、７５歳まで家のローンを抱え、毎日、長時間の通勤をし、殆ど役に立たない会議を繰り返し、金を使うことによってストレスを発散するような生活が続いていたと思う。多くの人から「仕事をやめるのはまだ早い。」と言われたが、屋久島へ来て３年を経た今、借金をせずに終の住処を持ち、日々自分の時間を持てる生活が送れ、身体を動かす健康的な仕事をしていることを考えると、これから人生の最終章を迎えようとしている私にとって、すばらしい決断だったと思う。