音楽活動６
                   　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2004.11.28

音楽に関する最初の記憶は、小学校１年生の時である。薄暗い教室に、ハーモニカを片手に困惑した私一人が立ちつくしている。そうです。音楽のハーモニカのテストの時でした。確か曲は「日の丸」だったと思う。クラスメートは、上手い人も下手な人もいたが、みんな無難に吹き終わりホッとした表情をしている。当時私は、音楽にまるっきり興味がなく、歌を歌うことさえなかった。不安な気持ちで自分の番を待ち、そして、出だしのたった一音符さえも吹けずに終わったテスト。当時ガキ大将で怖いもの知らずだった私が、余りにも情けなく、思わず大粒の涙を流してしまった。それは、教室の暗いイメージとして私の記憶に鮮明に残っている。それ以来、音楽の授業も音楽の先生さえも、大の苦手となってしまった。高校時代に合唱祭があったが一度も参加したことがなかった。歌えないので、苦痛なまでの疎外感を味わうのである。だから参加しないどころか、合唱際の当日さえクラスメートの晴れ舞台を見に行かず、悪友達と麻雀をしていた。
　４０歳の記念事業として、７年前に始めたピアノ。屋久島へきて、家が広くなったことを契機に中古のピアノを購入した。しかし、相変わらず楽譜を追う事に一生懸命で、曲に感情移入をしたり、リズムに乗ることさえできないでいる。未だにペダルを踏むことが出来ないでいた。右手と左手と別々のことをして、なおかつ、足も動かすのはとても至難な業なのである。何か大きなきっかけが無いと、私は一つ階段を登ることが出来ないでいた。
　屋久島へきて、時間的な余裕が出来、公共機関が開催する研修会や講座に積極的に参加している。町の広報で「高校が主催する音楽講座」が開催されることを知り、一念発起で参加することにした。
　講座の内容は、音楽の入門講座として、歌：声を出してアンサンブルを楽しもう、世界の音楽紹介・体験：世界の音楽を聴いて、世界旅行に行った気分を味わう、環境音楽：屋久島の自然が奏でる音に出会い、身近な音に親しむ音の地図作る、楽器つくり：手作りの楽器を作る、絵と音楽：音楽を聴いて自由に絵や図を描く、などである。
　歌の講座は一度ズル休みをしてしまったが、音楽初心者の私にとって、多くの目新しい発見がありとても有意義な講座であった。
　私は、最近、現実にあるものだけを絵にしているだけではつまらないと思い始め、これからは心の中を描いていこうと思っていた時であったので、音楽を聞きながら絵を描くというのは、私に一つの方向性を与えてくれたと思う。
　この音楽講座を受けたもう一つの理由が、ひょっとするとグランドピアノが弾ける機会があるのではないかと思ったからである。力量がないくせに、道具に走ってしまうという悪い癖がある。まともなショットを打てないくせに、プロといっしょのゴルフクラブが欲しくなる。ひょっとすると少しは上手く弾けるのではないかと思い込んでしまうのだ。
　幸いにも、講座の先生が、講座の前にピアノを弾いても良いですよという許可が出て、１０回の講座のうち、３回ほど練習させてもらった。
　１回目。私のトラウマである音楽の先生の前でピアノを弾くという大胆な行為により、余りの緊張に指が震えて弾けない。しかもグランドピアノの譜面台は、家にあるアップライトピアノの譜面台よりも高い位置にあるので、常に鍵盤の位置を確認しなければならない私にとって、これも大きな障害であった。
　２回目。先生が講座の準備をする傍らで、「プライド」や「いとしのエリー」を弾くと、先生がその曲を口ずさむ。それだけで緊張して、冷や汗がタラリと流れる。（私は過去に１年間だけ、ピアノの先生について習ったことがあるが、余りにも私の不器用さに先生が思わずため息を漏らしたという悲しい記憶がある。）「曲は、もっと感情を込めて、独創的に弾いた方が良いですよ。」とアドバイスを受けるが、曲に感情を込めるには苦手なペダル踏みを覚えなくてはいけない。せっかくグランドピアノを弾かせてもらっているのだから、何か一つ覚えようと決心する。それから２週間、毎日４時間ほどの練習に励む。
　３回目。講座の閉校式の当日、３０分早めに行く。講座の先生は、「この変わったおじさん、また来た。」と思っていたかもしれないが、私は大学受験に赴く心境でグランドピアノの前に座る。震えながらも２０分ほどピアノを弾き終わると、先生からは「前回とだいぶ変わった。」という感想をもらった。
　相変わらずリズム音痴で、何回もつまずき、決して上手くはなってなかったけれど、「まぁ、良し」としよう。