悩　め　る　接　吻

　恋愛というものほとんど無縁だった私は、接吻についても生涯の記憶に残るような物がほとんどありません。でも、これは絶対に忘れることが出来ないだろうなという接吻が一つあります。自分がいつしか死をむかえる時にも必ずや思い出すだろうなという接吻です。
　それは３年ほど前の出来事です。休日の午前中に子供達と森に遊びに行って、へとへとになって帰ってきて、ビールを飲みながら昼食をとりました。（昼間からビールを飲むなんて、すさんだ生活でした。）ビールを飲んだ私は、いい気持ちになり、普段の睡眠不足を補うために万年床の布団の中にもぐりこみました。
　１時間ほど寝てうつらうつらしていた時です。部屋のふすまが開き、私の隣に誰かが潜り込んできたようですが、まだ酔いの抜けきらない私は、目をつぶったまま上向きに寝てボーとしていました。そうしたら、突然、接吻をされて、一瞬ドキッとしましたが、状況が把握できなくてじっとしていました。それは外人が挨拶代わりにするようなキスではなく、かなり濃厚で長時間に及ぶ接吻でした。あんなに長いキスは初めてでした。部屋を出て行く後姿を薄目を開けて確認したら、なんと小学校４年生の上の娘でした。
　４０歳半ばの、脂ぎった、ニキビ痕のでこぼこした肌に無精ひげの生やした中年親父に…。未だにあの事件はなんだったのか悩んでおります。娘が成人したら、一度、聞いてみたいと思っています。