歴史の残る人

　私が高校生の時に好きだった人がいる。彼女は小さいころから日記を付けていた。その彼女が入っていたグループの交換日記に私も運良く入り込むことができ、彼女が書いた文書を何度も何度も読み返したものである。それは男の私には分からない、理解しがたい別世界を彼女は心に中に築いていて、いたく感動したものである。彼女が小さいころから付けていたという日記をとても読んでみたかったのを覚えている。
　人類には長い歴史がある。しかし、後世の人間が歴史を紐解くとき、その文明が文字を持っていたか否かによって、その文明の解明度は大きく違ってくる。人間個人も同じだと思う。４０年、５０年も生きていると昔のことはどんどんと忘れていく。自分の歴史が消えていくのである。しかし、日記を付けていた人は自分の歴史を残してきた人だと思う。
　私は文才が無く、夏休みの日記がとても嫌だった。両親に叱られながら夏休みの最後にまとめて書いていた記憶がある。しかし、こんな私でも仲間内で新聞を出したり、ミニコミ誌を作ったりするのが好きで、手元にいくつか残っているのである。５０歳を迎える今、それらを読み返してみるとその文章は全く別人のように思えたり、今も基本的な考え方は小さいころから変わらないと思ったりする。
　写真やビデオは沢山の情報を残してくれるけれど、その人の内面や考えていることを残すことは難しい。電子データとして残しているものも、いずれは忘れ去られてしまう。しかし、製本して本棚に残しておくと、目が触れたときに歴史を遡ることができる。紙に書いて残すというのは、もっとも便利で確実な方法のようだ。
　書籍類はどんどんと処分していくのであるが、友達から来た年賀状等は小学校時代のものから製本し残しているので、何時か書いた本人に送ってやろうかと思っている。小学校や中学校の年賀状は、一枚一枚手書きでその人の性格が色濃く残っているから。