蟻　の　話

蟻は、誰かが統率しているかのように働く。私はそれが不思議でならない。蟻というのは、確かに個々で一つの生命体として生きているのであるが、それ以外にその集団で一つの生命体を作っているのではないかと思う時がある。つまり個々の蟻は、人間でいうならば腎臓と肝臓とかの臓器の一つの細胞であって、実際は蟻は一つの集団で私たちのような意思を持っているのではないかと思うのである。
　高校の時に生物で習った、ミツバチの修正。八の字ダンスをして、蜜が採取できる花の位置（方向と距離）を教えるということを習った。最近の研究では、蜂は何でもかんでも全ての蜜を集めるのではなく、種類を一つに決めて集めるそうである。何匹かの蜂が花の情報を持ってくると、蜂同士でどの花の蜜を集めるか決めるのであるが、その決め方が人間の脳の働きと酷似しているという。蜂、一匹一匹が脳の細胞であり、蜂の集団が人間の脳になっているのではないかと思えてくる。
　私たちは、自分がすべてで、自分の意志で生きていると思っているが、実際は人間という集団の一部であり、その集団が大きな意思を持っているかもしれないのである。私たちの体の細胞が、酸素と栄養をもらうために日々働いているのと同じで、私たち人間もお金や食べ物をもらうために日々働いている。悲しいことに、一つ一つの細胞は、なぜ働くのか、何のために働くのか、それを理解することはできない。