２０１３．１２．２０

先日、広島の原爆ドームや平和記念資料館を訪れた。２０代の頃に、一度、会社の先輩に広島へ一緒に行かないかと誘われたが、その時は行けなかった。しかし、死ぬまでには、日本人として一度は行かなければいけない所だと思っていた。 　広島に行く前に呉市の海上自衛隊の軍港を見学し、そこに停泊している潜水艦や軍用艦を見て、自分の心がワクワクしたのを感じた。男には、本能的に権力や力の象徴に惹かれるものがある。拳銃が人を殺す道具だと知っていても、モデルガンが欲しくなったり、試し打ちをしたくなってしまう心理である。　 　広島の平和記念資料館は、展示場が２つに分かれていて、メインのほうには、原子爆弾の威力を説明した資料や戦争に至った経緯などが記されているだけである。原子爆弾が想像がつかないほどの威力があるのだと、ある意味、潜水艦を見た時と同じような気持ちになった。通路を通ってもう一つの展示場に行くと、そこには多くはないが、被爆した人の写真や遺品、絵などが展示されており、涙なくしては見れないものである。平凡な人間は、原爆ドームを見て、原爆の威力には驚くが、その結果どれだけの悲しみがあったのかは、なかなか想像できない。人間の身に何が起こったのか、写真を見て初めて、自分に置き換えて考えることができる。 　どうしてこんな悲劇が起こったのだろうかと考えてみた。その時に頭に浮かんだのが、「しがみつく」という言葉。私が前に勤めていた会社のOBで、登山が好きな人がいて、半年程前に屋久島に登山に来ていた。その時、その人が言っていた言葉である。 　「みんな会社にしがみついてるんだよ。」 　中途退職した私を前にそう言われ、意味がよく理解できず、また、酒の席でもあったので深くは考えずにいたが、心に残った言葉であって、この旅で考え続けていた。 　つまりしがみつくとは、一度手に入れた地位、名誉、利権、既得権、財産などにしがみつくことである。 　将来維持管理するお金が捻出できないと言われながら、道路はもう必要ないと言われながらも、自分の立場を維持するために、いろいろな理由をつけて道路を作り続けていく。ダイエット効果のない食品を売り続けていく。他人よりも一円でも安く物を買い続けていく。 　その人が置かれたそれぞれの立場で、自分の勢力を拡大していこうとするのである。原爆が投下されたのも、悪魔のような最悪な人間がその時だけ出現して、その人が落としたわけでない。その立場の中で、そう判断せざる負えなかったのでないだろうか？誰かに責任を取らせるだけのことでは、、また、同じようなことを繰り返すだろう。 　自分だけは、 　自分の家族だけは、 　自分の親戚だけは、 　自分の会社だけは、 　自分の国だけは、 　と、考えてはいけない社会を作っていかなければ、このような悲劇は、形を変え、やり方を変えて繰り返される。 　 　 　広島の原爆ドーム。ここで記念写真を撮っている人は見かけたが、涙している人はいなかった。